「元コンサルは市場価値が高い」という言葉は、転職市場でほとんど公理のように扱われている。実際、私が採用責任者を務めていた組織でも、履歴書に外資系や国内大手のコンサルティングファームの名前が並んでいるだけで、書類選考の通過率は明らかに高かった。人事担当者やエージェントが好んで使う「ポータブルスキル」「地頭の良さ」「論理的思考力」といった言葉も、コンサル出身者を形容する枕詞としてほぼセットで登場する。

しかし、それは入り口の話に過ぎない。採用会議に何百人分もの職務経歴書が並び、最終的に内定を出す人と出さない人を分けていく過程を何年も見てきた身から言うと、「元コンサルは市場価値が高い」という前提は、半分は真実で、半分は幻想だったと言わざるを得ない。

「元コンサルなら安泰」という思い込みで転職活動を進めた結果、書類は通るのに面接で連敗を続ける人を、私は何十人も見てきた。逆に、経歴だけを見ればさほど目立たないのに、面接官全員から高い評価を勝ち取る元コンサルもいた。この差がどこから生まれるのかを、採用側で実際に見てきた具体的な場面をもとに書いていきたい。

「元コンサル」という肩書きだけで通った時代はもう終わっている

組織が10名から100名に拡大していく過程で、採用のフェーズごとに応募者の顔ぶれは大きく変わっていった。初期の頃は、応募者の絶対数が少なく、「〇〇ファーム出身です」という紹介だけで一定の期待値がつき、実際にその期待に応える人が多かった。しかし採用人数が増え、母集団が広がるにつれて、コンサルティングファーム出身者の応募自体が急増した。

結果として何が起きたか。「元コンサル」というカテゴリの中での競争が激化し、肩書き単体が持つ弁別力が急速に低下したのである。採用会議では、「この人はどこのファーム出身か」よりも先に、「その中で具体的に何を担っていたか」を必ず深掘りするのが当たり前になった。かつては通っていた自己紹介の型が、途中から全く機能しなくなっていく様子を、採用側として何度も目にした。

半分は「正解」──コンサル経験が確実に評価される部分

誤解のないように言っておくと、コンサルティングファームでの経験そのものが無価値だという話ではない。採用会議で一貫して高く評価されてきた要素は、確かに存在する。

  • 複雑で曖昧な問題を、構造化して分解する力(いわゆる論点整理・イシューツリーの運用経験)
  • 役員クラスの相手に対して、短時間で意思決定を促す資料と説明の作り方
  • タイトな納期とプレッシャーの中で成果物を出し切る仕事の進め方
  • 未経験の業界・テーマに対しても、短期間でキャッチアップする学習速度

これらは業界や職種を問わず、ほぼどの企業の採用会議でも「この人はうちに来ても即戦力として動けそうだ」という評価につながりやすい要素だった。特に事業会社側の面接官は、こうした汎用スキルに対して素直に高い評価をつける傾向が強かった。この意味で、「元コンサルは市場価値が高い」という言説は確かに半分は正しい。

半分は「間違い」──市場価値を下げている元コンサルに共通するパターン

一方で、採用会議の場で評価が伸び悩む、あるいは選考の途中で失速していく元コンサルにも、明確な共通パターンがあった。

抽象度の高い言葉でしか語れない

「戦略立案を担当していました」「クライアントの経営課題を解決していました」という説明で終わってしまう候補者は、非常に多い。面接官が「具体的にどんな課題で、あなたはどんな分析をして、最終的にどの選択肢を推したのか」と一段掘り下げた瞬間に、言葉が急に曖昧になる。これは、プロジェクトの中で自分が本当に意思決定に関わっていたのか、それとも周辺作業を担っていただけなのかが、質問一つで露呈してしまう典型的な場面だった。

「作業者」止まりだった経験を、成果として語ってしまう

データ収集、資料の体裁調整、議事録の取りまとめといった実務は、若手であれば誰もが通る道であり、それ自体は問題ではない。問題なのは、そうした作業の延長線上にある経験を、あたかも自分が意思決定を主導したかのように語ってしまうケースである。採用側は、成果の大きさそのものよりも、「誰の責任で、どんな判断をしたか」を語れるかどうかを見ている。ここがずれていると、話せば話すほど評価が下がっていく。

ファームの知名度に依存し、文脈を翻訳できない

特定のファームでしか通じないフレームワークや社内用語を、そのまま面接の場に持ち込んでしまう人もいた。事業会社の面接官には伝わらない言葉で説明を続け、結果として「何を言っているのかよくわからないが、とりあえず優秀そうな雰囲気だけがある人」という、かえって不利な印象を残してしまう。

採用側が最終的に評価しているのは、「コンサルという看板」ではなく、「その看板の中で、自分がどんな意思決定に関わってきたか」を、他者にも伝わる言葉で語れるかどうかである。

採用会議で実際に評価が分かれた瞬間

面接後の評価が真っ二つに割れるのは、たいてい同じ種類の質問がきっかけだった。「そのプロジェクトで、なぜその打ち手を選んだのか」「反対意見が出たとき、どう対応したのか」「もし今同じ状況に立ったら、当時と違うやり方をするか」。この手の質問に対して、即座に自分の言葉で答えられる人と、資料の内容をなぞるような答えしか返せない人とに、はっきり分かれた。

前者は、プロジェクトの当事者として意思決定の当事者意識を持って動いていた人であり、後者は、優秀なチームの中で役割をこなしていた人だった。どちらも職務経歴書の見た目はほとんど変わらない。しかし、面接で交わされる会話の内容は、驚くほど対照的だった。

本当に市場価値が高い「元コンサル」に共通していたこと

逆に、内定に至った元コンサルに共通していたのは、次のような姿勢だった。

  • プロジェクトの成果を、自分の役割と結びつけて具体的に説明できる
  • うまくいかなかった案件についても、要因と学びを率直に語れる
  • コンサル用語を使わず、事業会社の言葉に翻訳して話せる
  • 入社後に何を成し遂げたいかが、これまでの経験と地続きになっている

こうした人たちは、面接官から見て「このファームにいたから優秀」ではなく、「この人自身が優秀だから、このファームでも成果を出せていた」という順番で評価されていた。この違いは、書類の段階ではほとんど見分けがつかない。だからこそ、面接という場が本質的な選別機能を果たすことになる。

ファームの種類・年次によっても評価の前提は変わる

もう一つ、採用会議で繰り返し議論になったのは、「コンサル出身」とひとくくりにできるほど中身は均質ではない、という点だった。総合系ファームの戦略部門、独立系の戦略ファーム、BPOに近い実行支援型のファーム、監査法人系のアドバイザリー部門では、求められるアウトプットの質も、任される裁量の大きさも大きく異なる。同じ「元コンサル」という肩書きでも、面接で語られる経験の解像度には、はっきりとした差が出た。

年次による差も大きい。マネージャー以上でプロジェクトの意思決定に直接関わってきた人と、アナリスト・アソシエイトとして1〜2年在籍しただけの人とでは、語れる経験の絶対量そのものが違う。後者の場合、それ自体は不利ではないが、面接官は「若手であることを踏まえたうえで、その中でも自分の頭で考えて動いた場面があったか」を見ている。年次の浅さを、経験の浅さとして正直に扱いながら、それでも語れる具体的な場面を持っている人は、評価が落ちにくかった。

結論:市場価値を決めるのは肩書きではなく、語れる中身

「元コンサルは市場価値が高い」という言説は、入り口の通過率という意味では確かに正しい。しかし、その先にある内定という結果にまで結びつくかどうかは、コンサルというブランドとはほぼ無関係に、個人の語れる経験の中身によって決まる。

これから転職活動を始める元コンサルの読者に伝えたいのは、「自分がコンサル出身であること」に安心せず、「自分がそこで何を意思決定し、何を学び、何を失敗したか」を、具体的な言葉で語れる状態を作っておくことである。市場価値は肩書きが保証してくれるものではなく、自分自身の言葉で証明し続けるものだ。