面接で「御社の繁忙期と閑散期を教えてください」と聞かれるたびに、私は少し複雑な気持ちになっていました。質問自体はまったく正しい。むしろ聞いておくべき質問です。ただ、その質問の裏にある期待と、実際にコンサルという仕事のスケジュールがどう動いているかには、けっこう大きなズレがあることが多かったからです。
多くの候補者は「繁忙期は激務、閑散期はゆっくり休める」という、いわば季節労働のようなイメージでこの言葉を使います。夏は暇で冬は死ぬほど忙しい、そういう会社を想像している人が一定数いる。ですが、コンサルの現場で実際に起きている「波」は、季節ではなくプロジェクトの単位で発生します。しかも一人のコンサルタントが同時に複数のプロジェクトの異なるフェーズを抱えていることが普通なので、会社全体としての「閑散期」はほとんど存在しません。存在するのは、個人単位・プロジェクト単位の負荷の波です。
この誤解を面接の場でどう表現するかによって、採用側は候補者が業界研究をどこまで深くやっているか、そして自分の働き方をどこまで具体的に想像できているかを見ています。今日はこの「繁忙期・閑散期」というテーマを、採用会議で実際に議論になった候補者の発言パターンを交えながら、できるだけ実態に近いかたちで書いておきたいと思います。
「コンサルは一年中激務」という思い込み
未経験からコンサル業界を目指す方の面接で頻出する質問のひとつが、ワークライフバランスに関するものです。その中でよく出てくるのが「入社後、プライベートの時間はどのくらい確保できますか」という聞き方。これ自体は当然の関心事ですが、その背後にある前提が「コンサル=常に激務」という一枚岩のイメージであることが多い。
実際には、忙しさは驚くほど不均一です。同じ会社の同じ職種でも、担当しているプロジェクトのフェーズによって稼働時間は2倍以上変わります。提案書を仕上げる週と、クライアントへのインタビューを重ねている週と、最終報告のスライドを磨き込んでいる週では、まったく違う働き方になる。これを「会社としての繁忙期・閑散期」という単位で捉えようとすると、実態とずれた質問になってしまいます。
実際の「波」はプロジェクトの単位で来る
採用会議で現場のマネージャーから聞く話を総合すると、負荷が高まるタイミングにはいくつかの典型があります。
- プロジェクト開始直後、論点設計と初期仮説を組み立てる最初の1〜2週間
- 中間報告(インタリム)前の、分析結果をロジックに落とし込む数日間
- 最終報告前の、資料のクオリティを詰める最後の週
- 提案フェーズで、複数クライアントの提案書を並行して抱えているタイミング
逆に負荷が落ちるのは、プロジェクトとプロジェクトの間の「谷」の時期や、クライアント側の意思決定を待っている期間です。ただし、ここで重要なのは、この谷のタイミングは個人ごとにバラバラで、会社全体で一律に訪れるものではないということです。同じチームの中でも、Aさんは今週が山場、Bさんは今週が谷、ということが普通に起きます。
「会社としての閑散期」がほぼ存在しない理由
ファームが成長している時期は、常に複数のプロジェクトが異なるタイミングで並走しています。組織全体として人が余る時間帯を作らないように、営業(提案)側もアサイン担当も稼働状況を細かく見ながら次のプロジェクトを組んでいく。つまり「会社が暇になる時期」を作らないことが、経営としてはむしろ健全な状態です。これは私が採用責任者として組織を10名から100名に拡大する中で、常に頭を悩ませていた「人のアサインの谷間をどう埋めるか」という課題そのものでもありました。
面接で見えてくる、候補者の見誤りパターン
この「波」の実態を理解しているかどうかは、面接の会話の中で驚くほど明確に表れます。採用会議でよく話題になったのが、次のようなパターンです。
ひとつは、「閑散期に何をしますか」という質問をそのまま鵜呑みにして、「閑散期はまとまった休みが取れると聞いています」と答えてしまうケース。これは業界研究が表面的な情報(ブログやSNSの断片的な発言)にとどまっていることのサインとして、面接官の間で共有されることが多かった印象です。
もうひとつは逆のパターンで、「繁忙期も閑散期もなく、常に全力で働き続けられます」と力強くアピールしてしまうケース。これも実は評価が割れます。持続可能性への配慮がない発言として、むしろマイナスに捉えられることがある。コンサルという仕事は短距離走ではなく、負荷の高い時期と落ち着いた時期を繰り返しながら何年も走り続ける仕事です。「ずっと全力」と言い切る人ほど、実際に負荷の波を経験したことがないのではないか、という懸念を持たれやすいのです。
採用側が本当に見たいのは、「忙しい時期がある」という事実を知っているかどうかではなく、負荷の波を前提にした上で自分がどう振る舞うつもりか、という具体的な想像力です。
閑散期こそ、差がつくタイミングになる
意外に思われるかもしれませんが、採用側の視点で見ると、負荷が落ち着いている時期の使い方のほうが、実は評価に直結します。忙しい時期は誰でも必死に動くので、いい意味でも悪い意味でも差が出にくい。一方で、比較的落ち着いた期間にどう動くかは、そのコンサルタントの伸びしろを判断する材料になっていました。
具体的には、次のような動きをしている人が社内で評価されやすい傾向がありました。
- 落ち着いた期間に、次のプロジェクトのインダストリー知識を自主的にキャッチアップしている
- 過去のプロジェクトの振り返り資料(ナレッジ)を整備し、チームに共有している
- 後輩のレビューやメンタリングに時間を使っている
- 提案活動やナレッジマネジメントなど、直接の売上に結びつかない社内活動に手を挙げる
逆に、落ち着いた時期をただの「休息期間」として過ごすだけの人は、次にアサインされるプロジェクトの立ち上がりで差が出やすい。これは怠けているという意味ではなく、負荷の波を「回復」だけに使うか「準備」にも使うかの違いが、数年単位で見たときのキャリアの伸び方に表れてくる、ということです。
面接でこの話題が出たときに伝えるべきこと
もし面接で繁忙期・閑散期について聞かれる、あるいは自分から聞く場面があれば、意識しておくといいことがあります。まず、「会社としての繁忙期・閑散期」という前提で質問するのではなく、「プロジェクトのフェーズによって負荷が変わる」という前提で聞き方を変えること。たとえば「プロジェクトのどのフェーズが特に稼働が上がりますか」「負荷が落ち着いたタイミングでは、どのような過ごし方をしている方が多いですか」といった聞き方のほうが、業界理解の深さが伝わります。
そして自分の側から話すときも、「忙しい時期も落ち着いている時期も、それぞれにやるべきことがあると思っている」という姿勢を見せられると、面接官には「この人は長く走り続けられそうだ」という印象が残ります。私が採用会議で最終的に通したいと感じた候補者の多くは、忙しさそのものへの耐性をアピールする人ではなく、波があることを前提にした上でのペース感を語れる人でした。
本質は「波を知っているか」ではなく「波にどう向き合うか」
コンサルの繁忙期・閑散期について調べること自体は、業界研究として正しい行動です。ただ、そこで手に入れた情報を「季節ごとの忙しさ」という単純な図式に落とし込んでしまうと、実態とのズレが面接での発言に表れてしまいます。実際の負荷はプロジェクト単位・個人単位で細かく波打っていて、会社全体として一律に暇になる時期はほとんど来ない。この前提を理解しているかどうかが、業界研究の深さを測る、ちょっとしたリトマス試験紙になっていました。
そして何より大事なのは、波の存在を知ることそのものではなく、その波にどう向き合うかという姿勢です。忙しい時期を乗り切る力だけでなく、落ち着いた時期を次への準備に使えるかどうか。この両方を意識して語れる人は、面接の場でも、そして実際にファームに入った後の数年間でも、着実に評価を積み上げていく傾向にあったように思います。