「コンサルティングファームを目指しています」と語る候補者は数えきれないほど見てきた。だが実際に入社してみると、数か月で「これは自分がイメージしていたコンサルと違う」と感じ、モチベーションを落としていく人が一定数いる。

私が採用責任者として組織を10名から100名まで拡大させる過程で、この手の早期離脱・早期不満は何度も起きた。しかも興味深いのは、離脱する人の多くが「会社選びを間違えた」というより「そもそもコンサルという言葉の中身を知らずに選考を受けていた」ケースだったということだ。

特にこのミスマッチが集中して起きるのが、ソリューションが先に決まっている会社である。つまり「何を解決するか」ではなく「どう導入するか」が仕事の中心になっているファームだ。世間的には「コンサル」を名乗っていても、現場の実態は導入支援・実行支援に近い。

今回は、この「コンサルなのにコンサルができない」と言われがちな会社の正体と、その実態を知らずに選考を受けることのリスク、そして逆にそうした会社が向いている人のタイプについて、採用会議で見てきた具体例をもとに書いていく。

「ソリューションが決まっている会社」とは何か

採用会議で候補者の職務経歴書を見ながら、面接官同士でよく交わされていた言葉がある。「この人、戦略ファーム出身って書いてあるけど、実質はSAP導入の人だよね」というような会話だ。

ここで言う「ソリューションが決まっている会社」とは、特定のパッケージソフトウェア(SAP、Salesforce、ServiceNowなど)や特定の手法(RPA導入、DXの一部工程、特定コンサルティングメソッド)をあらかじめ商材として持ち、その導入・展開を請け負う形態のファームを指す。クライアントの課題を白紙から定義し、複数の選択肢の中から最適解を探るという工程は、すでに他部門や上流のファームが済ませていることが多い。つまり「何をやるか」は決まっていて、「どうやるか」だけが仕事になる。

これ自体が悪いわけではない。むしろ実装フェーズには実装フェーズなりの専門性と難しさがある。問題は、こうした会社の多くが採用ページや求人票では「コンサルタント」という肩書きを前面に出し、戦略立案や課題設定に近いイメージを候補者に持たせてしまうことだ。

面接で見えてくる「期待とのズレ」

面接官として何百人もの候補者と話す中で、このズレが顕在化する瞬間がある。「入社したらどんな仕事をしたいですか」と聞いたときの答え方だ。

「クライアントの経営課題を構造化して、複数の打ち手を比較検討し、意思決定を支援したい」と話す候補者に対して、こちらの実際の案件はほぼすべてが特定パッケージの要件定義・設計・導入という会社だった場合、面接官の頭の中では静かにアラートが鳴る。候補者が悪いのではない。求人票やエージェントからの情報だけでは、この温度差が伝わりきっていないのだ。

実際、採用会議でこのタイプのミスマッチが疑われる候補者については、内定を出す前にもう一段階、現場社員との「仕事内容のすり合わせ面談」を挟むケースが増えていった。それでも入社後半年でギャップを訴える人はゼロにはならなかった。

興味深いのは、辞退や早期離脱の理由として本人が語る言葉が「仕事がつまらない」ではなく「思っていたコンサルと違った」というものだったことだ。仕事の難易度や量に不満があるわけではなく、期待していた仕事の”種類”と実際の仕事の”種類”がずれていることに違和感を覚えている。これは会社の良し悪しの問題ではなく、選考段階での解像度の問題だと、採用側にいて何度も痛感した。

肩書きに「コンサルタント」とついているかどうかより、日々のアウトプットが「選択肢を作る仕事」なのか「決まった選択肢を実行する仕事」なのかを見極めることの方が、はるかに重要だ。

なぜこうした会社が「コンサル」を名乗るのか

採用の内側にいると、この構造にも理由が見えてくる。ひとつは単価の問題だ。同じ実装作業でも「SEやエンジニア」として売るより「コンサルタント」として売る方が、クライアントへの請求単価も、求職者への提示年収も上げやすい。業界としての値付けの慣習が、肩書きのインフレを後押ししている面がある。

もうひとつは組織構造の問題だ。大手SIerや事業会社が新たに「コンサルティング部門」を立ち上げるケースが増えているが、その多くは既存の実装力・導入力を土台にした部門であり、上流の課題設定から入れる案件はまだ少ない。看板は「コンサル」でも、実質的な仕事の中身が追いついていない過渡期の組織は珍しくない。

採用責任者としては、こうした組織の立ち上げフェーズでは特に、求人票の表現と現場の実態にギャップが出やすいことを痛感していた。悪意があるというより、組織自体が急成長の途中で、看板と中身がまだ一致していないのだ。

それでも「ソリューション先行型」が向いている人

ここまで課題含みの書き方をしてきたが、こうした会社への転職が誤りだと言いたいわけではない。むしろ向いている人にとっては、非常に良いキャリアの選択肢になる。

  • 特定領域(SAP、クラウド基盤、特定業界の業務知識など)で専門性を積み上げたい人
  • 抽象的な戦略論より、手を動かして成果物を作ることにやりがいを感じる人
  • 将来的に独立やフリーランスとして、特定ソリューションの実装力で稼ぎたい人
  • まずは「実行力」を評価されるポジションで実績を作り、後から上流案件に移りたい人

実際、採用会議で「この人はソリューション先行型の会社で数年経験を積んでから、うちの上流案件に来てもらう方が伸びる」と評価されたケースは何度もあった。順番を間違えなければ、遠回りにはならない。

むしろ危ういのは、上流案件への憧れだけを理由に、実装経験がほとんどないままいきなり戦略ファームの選考を受け、書類や面接で「地に足のついた話ができない」と評価されてしまうケースだ。採用側が見ているのは肩書きの積み上げではなく、その人が語る経験の解像度である。ソリューション先行型の会社での経験も、語り方次第では十分な武器になる。

選考の場でミスマッチを見抜くための質問

候補者側がこの温度差を選考中に見抜くのは、実はそれほど難しくない。私が面接官として、逆にこう聞かれたら「よく調べているな」と感じた質問がいくつかある。

  • 「直近の案件で、クライアントの課題設定そのものから関わった割合はどのくらいですか」
  • 「提案する解決策の選択肢は、案件開始時点でどの程度決まっていますか」
  • 「入社後1年目のメンバーが最も時間を使っている作業は具体的に何ですか」
  • 「戦略フェーズと実行フェーズ、社内での評価配分はどちらに寄っていますか」

これらの質問に対する答えが具体的で即答できる面接官であれば、その会社は自分たちの立ち位置を正確に理解している。逆に言葉を濁す、あるいは「うちは戦略から実行まで一気通貫です」という抽象的な答えしか返ってこない場合は、一度冷静に求人票と現場の実態を疑ってみる価値がある。

結論:肩書きではなく仕事の中身で選ぶ

「コンサルなのにコンサルができない」という評判が立つ会社の多くは、決して怠慢な会社でも、候補者を騙そうとしている会社でもない。ソリューションが先に決まっているビジネスモデルの中で、看板としての「コンサル」という言葉と、実務としての中身に距離があるだけだ。

採用責任者として繰り返し感じてきたのは、入社後の満足度を決めるのは会社の知名度でも肩書きの響きでもなく、「自分がやりたい仕事の粒度」と「実際に任される仕事の粒度」がどれだけ一致しているかだということだ。転職を考えるなら、まずは自分がどちらの粒度で働きたいのかを言語化し、その上で面接官に具体的な質問をぶつけてほしい。それだけで、入社後のギャップは大きく減らせるはずだ。