採用の相談に来る候補者の九割近くは、「コンサル」と聞いて思い浮かべる会社が三つか四つしかない。いわゆる戦略系のトップファーム、あるいは総合系の大手数社。そこに入れるかどうかだけを軸にキャリアを考えていて、面談の最初の十分はだいたいその話で終わる。

だが私が採用責任者として実際に見ていた組織の内側では、まったく違う景色が広がっていた。事業が急拡大する過程で本当に人手が足りなかったのは、華やかな戦略ケースを回すチームよりも、評価制度を組み直し、等級を再設計し、M&A後の人事統合を泥臭くやり切る人材だった。世の中的にはほとんど知られていないが、「人事・組織コンサル」という領域には、想像以上に厚みのある仕事とキャリアが存在する。

この記事では、なぜこの領域が候補者の視界に入りにくいのか、実際にどんな仕事をしているのか、そして採用会議で「本当はこの領域に向いているのに、本人がまったく気づいていない」と評されていた人にはどんな共通点があったのかを、元採用側の立場から具体的に書いていく。

「コンサル」というラベルの九割は、実は一部の会社にすぎない

候補者の職務経歴書を見ていて感じるのは、「コンサル業界」という言葉のイメージが驚くほど狭いということだ。多くの人は、経営層向けに戦略を提言する仕事か、業務システムを導入するITコンサルのどちらかしか思い浮かべていない。

しかし実際の市場には、組織設計・人事制度・タレントマネジメント・チェンジマネジメントといった、いわゆる「ヒトと組織」を専門に扱うコンサルティング領域が存在する。規模で見れば決して小さな市場ではなく、むしろ企業の成長局面では戦略以上に需要が高まる領域だ。組織が急拡大したり、M&Aで異なる文化の会社が一つになったりするとき、最終的に業績を左右するのは戦略の正しさよりも、それを実行できる組織と評価の仕組みがあるかどうかだからだ。

それにもかかわらず、この領域を最初から選択肢に入れて転職活動を始める人はごく少数派だった。理由は単純で、就職・転職の情報として表に出てくる回数が圧倒的に少ないからだ。

採用会議で見えていた、人事・組織コンサルの本当の仕事

候補者向けの説明会や書類選考の場では、この領域の仕事はよく「制度を作る仕事」と一言で片付けられがちだった。だが実際に社内で交わされていた採用会議での議論は、もっと生々しいものだった。

  • 急成長するクライアント企業で、評価制度が存在しないまま人数だけが増え、不満が噴出している状況を数か月で立て直すプロジェクト
  • 買収によって統合された二社の等級・報酬体系をすり合わせ、片方の社員が「格下げされた」と感じないように設計するPMI(統合後)案件
  • 経営陣の意向と現場のマネージャーの本音がまったく噛み合っていない組織で、両者の橋渡し役として何十人ものインタビューを行う組織診断
  • 次世代リーダーの選抜と育成計画を、経営陣の感覚論ではなくデータに基づいて設計するタレントマネジメント案件

これらに共通するのは、正解が一つに定まらない「人の感情」と「組織の合理性」の両方を扱わなければならない点だ。戦略コンサルのように数字とロジックだけで押し切れる場面は少なく、むしろ利害の対立を丁寧にほどいていく力が問われる。採用会議では、こうした案件を任せられる人材を「地図のない山を登れるタイプ」と表現する上司もいた。

なぜこの領域は求人市場で「見えにくい」のか

この領域の求人が候補者の目に触れにくい理由は、大きく二つあると採用側として感じていた。

一つは、企業側がこの領域の採用を大々的に告知しないことが多いという事情だ。組織や人事に関するプロジェクトは、クライアント企業にとって機密性が高く、社内の人間関係にも直結するため、事業内容を派手に打ち出したマーケティングと相性が悪い。結果として、求人票の表現も控えめになり、検索でヒットしにくくなる。

もう一つは、転職エージェント側の偏りだ。エージェントが得意とする紹介先は、担当者自身が過去に強く付き合いのあった業界に引っ張られやすい。戦略系やIT系の紹介実績が豊富なエージェントほど、その領域の求人を優先的に候補者に提示する傾向があり、人事・組織コンサルの求人まで丁寧に説明してくれる担当者に当たるかどうかは、正直なところ運の要素も大きかった。

候補者が見ている「コンサル業界の地図」は、実際に存在する市場よりもずっと狭い。見えていないだけで、選択肢はもっと広い。

「本当は向いているのに気づいていない人」の共通点

採用会議で「この人は人事・組織コンサルの適性が高い」と評されていた候補者には、いくつかの共通点があった。本人はコンサル未経験のつもりで応募してきているが、経歴を分解すると驚くほど親和性が高いケースが多かった。

事業会社の人事・労務出身者

制度設計や労務対応の実務を事業会社側で担ってきた人は、机上の理論だけでなく「現場でどう運用が破綻するか」を肌で知っている。この解像度の高さは、外部からロジックだけで提案するコンサルタントにはなかなか出せない強みだった。

研修・組織開発の担当者

研修設計や1on1の仕組みづくりに携わってきた人は、組織の空気を読み取り、言語化する力に長けていることが多い。数字に落とし込む訓練さえ積めば、組織診断やチェンジマネジメントの案件で即戦力になりやすい。

現場マネージャー経験者

意外に評価が高かったのが、部下を持つマネージャーとして評価面談や配置転換の板挟みを経験してきた人だ。人事制度が「理屈通りに機能しない現場」を体感しているため、机上の空論に陥りにくい。

面接でこうした経歴の人に会うと、本人は「自分はコンサルの経験がないので不安です」と前置きすることが多かった。だが採用側から見ると、その経験こそがこの領域では武器になる。むしろ純粋な戦略コンサル出身者よりも、現場での泥臭い経験を持つ人の方が、組織の複雑さに耐えられると評価されるケースは珍しくなかった。

戦略系コンサルとのキャリアの違いを正しく理解する

もちろん、人事・組織コンサルと戦略コンサルは仕事の性質もキャリアパスも異なる。戦略コンサルが経営の意思決定そのものに近い場所で速いスピードの分析力を鍛える場だとすれば、人事・組織コンサルは意思決定を組織全体に浸透させ、実際に動かすところまで伴走する仕事だ。求められる評価軸も、論理の切れ味だけでなく、関係者を巻き込みながら物事を前に進める粘り強さに重心が寄る。

どちらが優れているという話ではなく、自分がどちらの筋力を伸ばしたいのかという話だ。実際、事業会社の経営企画や人事責任者に将来的にキャリアを移していく人材の中には、戦略系よりも人事・組織コンサルでの経験を評価されて抜擢されているケースを何度も見てきた。組織を実際に動かした経験は、経営に近いポジションほど価値を持つ。

結論として言えること

コンサル業界への転職を考えるときに、最初に思い浮かぶ数社だけを基準に「自分には向いていない」と判断してしまうのは、あまりにもったいない。市場には、人と組織の複雑さに向き合う仕事を専門にした領域が確かに存在し、そこでは戦略コンサルとは違う種類の力が高く評価されている。

採用会議の場で何度も感じたのは、候補者自身が自分の経験の価値を過小評価しているという事実だった。事業会社での泥臭い人事実務も、現場マネージャーとしての板挟みの経験も、この領域では立派な武器になる。まずは自分の経歴を、戦略コンサルという狭い物差しだけで測らないことから始めてほしい。