「未経験からコンサルを目指すなら、まず戦略ファームを狙うべきですか。それとも総合系やITコンサルから入るべきですか」。これは採用責任者をやっていた5年間で、最も多く受けた質問のひとつです。質問の裏には、戦略系を頂点として総合系・IT系がその下に連なる、という序列のイメージがあることが多いように感じます。まずは入りやすいところから、いずれ実力をつけて上を目指す、という発想です。
ただ、採用会議の内側から見ていると、この序列的な発想そのものが、選考でつまずく人の典型的な思考パターンだったというのが正直な実感です。戦略・総合・ITという括りは業態やビジネスモデルの違いであって、優劣の階段ではありません。にもかかわらず、多くの候補者がこの前提を持ち込んだまま面接に臨み、結果として的外れな回答を重ねてしまう。
この記事では、組織が10名から100名に拡大する過程で数百人規模の書類・面接に関わった経験から、「未経験者はどこを目指すべきか」という問いに、序列ではなく適性という切り口で答えていきます。どのファーム種別を選ぶかよりも重要な、選考の実務的な話です。
「戦略系が上、総合・IT系が下」という前提のズレ
まず率直に言うと、採用側はファームの種類を優劣で見ていません。見ているのは、その候補者が持つ強みと、そのファームが求める仕事の型がどれだけ噛み合っているかだけです。戦略系は少人数で仮説を高速に組み替えながら経営課題の骨格を作る仕事、総合系は大人数のプロジェクトを実行まで動かし切る仕事、IT系は業務知識とシステムの橋渡しをしながら現場を変えていく仕事です。求められる筋肉が違う。
だからこそ、書類選考の段階で「戦略系が第一志望で、総合系とIT系は滑り止めです」というスタンスが透けて見える候補者は、総合系・IT系の選考でむしろ不利に働くことが多々ありました。滑り止め扱いされていることは、志望動機の解像度の低さとしてほぼ必ず面接官に伝わります。逆に、総合系を第一志望として明確な理由を語れる候補者の方が、同じ戦略系の選考でも「地に足がついている」という評価を受けやすい、という逆転現象すらありました。
採用側が見ているのは「どのファームが格上か」ではなく「なぜこの仕事のやり方があなたに合うのか」であり、序列で考えている時点で、その問いに答えられていないことが多いのです。
採用会議で繰り返し見た「入りやすさ」で選ぶ人の末路
未経験者の中には、「戦略系は難易度が高いから、まずITコンサルで実務経験を積んでから戦略系に転じたい」という戦略を立てる人が一定数います。考え方自体は悪くありません。ただし、これを面接でそのまま口にしてしまうと、IT系の選考担当者からは「うちを踏み台としか見ていない」という印象を持たれ、通過率が目に見えて下がります。
採用会議で議論になるのは、だいたい次のようなケースです。書類上は優秀で、地頭の良さも感じられる。しかし面接での回答が「なぜこの会社か」ではなく「なぜコンサル業界か」で終始している。踏み台として選んでいることが本人にも自覚があるため、志望動機を深掘りされると急に言葉が曖昧になる。こういう候補者は、最終的に「入社後の定着率が読めない」という理由で見送りになることが多かったというのが実感です。
面白いのは、逆のパターンも同じくらいの頻度で起きていたことです。難易度の高さに惹かれて戦略系ばかり受け、書類選考の時点で何十社も落ち続けている候補者。この場合、次第に「なぜ戦略系でなければならないのか」という説明が空虚になっていき、面接官には「肩書き先行」という印象を与えてしまいます。入りやすさで選ぶのも、難易度の高さで選ぶのも、根っこは同じ落とし穴です。判断軸が自分の適性ではなく、外側の評価基準に置かれている。
未経験者の「地力」はファームごとに全く違う見られ方をする
ここが最も見落とされているポイントですが、同じ「地頭の良さ」や「ポテンシャル」であっても、ファームの種類によって評価される角度がまったく異なります。
戦略系が見ているもの
ゼロから論点を立て、限られた情報から仮説を組み立てる力です。面接ではケース面接という形で、答えのない問いに対してどう構造化するかを見られます。ここで評価されるのは正解を出す力ではなく、思考のプロセスが崩れないことです。
総合系が見ているもの
大規模なプロジェクトを、利害の異なる複数の関係者を巻き込みながら前に進める力です。面接では過去の経験について「どうやって周囲を動かしたか」を執拗に聞かれる傾向があります。個人の頭の良さより、チームを機能させた実績が重視されます。
IT系が見ているもの
業務側の言葉とシステム側の言葉を翻訳できる素地です。前職での業務理解の深さや、ツール・システムに対する抵抗感の少なさが、地頭以上に重視される場面を何度も見てきました。技術者としての専門性までは求められませんが、技術に対する学習意欲は必ず確認されます。
この違いを理解せずに、どのファームでも同じ「地頭アピール」を繰り返してしまう候補者は非常に多い。戦略系の面接でチームマネジメントの実績ばかり語ってしまったり、逆に総合系のケース面接的な質問に対して個人プレーの思考プロセスだけを語って、協働の視点が抜け落ちてしまったり。ファームごとに評価軸を作り直さずに使い回す志望動機は、採用側から見ればすぐに見抜けてしまいます。
結局、「どこを目指すべきか」への答え方
採用責任者として率直に言えば、未経験者が最初に目指すべきファームの答えは一つではありません。ただし、判断の順番には明確な原則があります。ファームの格ではなく、自分がこれまでの仕事でどの筋肉を最も使ってきたか、そしてどの筋肉をこれから最も伸ばしたいかを先に言語化することです。
- 曖昧な状況で仮説を立て、検証を繰り返すことに手応えを感じてきたなら、戦略系の選考プロセスと相性が良い可能性が高い。
- 立場の異なる人を巻き込み、物事を実行段階まで動かし切ってきた経験があるなら、総合系の評価軸と噛み合いやすい。
- 特定の業界・業務に深い知見があり、それをテクノロジーで変えることに関心があるなら、IT系での評価が高くなりやすい。
この順番を踏まずに、まずファームのブランドやカテゴリーで選んでから、それに自分を合わせようとする候補者ほど、面接で語る言葉が借り物になっていきます。採用会議でよく交わされていた言葉を借りれば、「この人が何をやりたいのかではなく、どう見られたいのかが先に立っている」という評価です。こうなると、どれだけ経歴が優秀でも通過は難しくなります。
踏み台戦略そのものは否定しない、ただし語り方を変える
誤解のないように付け加えると、「まずIT系で経験を積んで、将来的に戦略系や総合系を目指す」というキャリア戦略自体は、実際に機能しているケースを何度も見てきました。否定すべきは戦略ではなく、それを面接でそのまま踏み台と語ってしまう姿勢の方です。
通過していく候補者は、同じキャリアプランを持っていても、目の前のファームでの仕事そのものに対する興味を、将来のプランと切り離さずに語ります。「この会社での仕事を通じて何を身につけたいか」を軸に置き、その先にあるキャリアの選択肢は自然な帰結として触れる程度にとどめる。この語り方の違いだけで、同じ経歴・同じキャリアプランでも通過率は大きく変わっていました。
未経験からコンサルを目指す際に本当に必要なのは、戦略・総合・ITのどれが優れているかを見極めることではなく、自分がこれまで何に手応えを感じ、これから何を伸ばしたいのかを、借り物ではない自分の言葉で説明できるようにしておくことです。ファームの序列を気にする時間があるなら、その言語化に充てた方がはるかに選考結果に効いてきます。