「書類選考で見られているのは、提出した職務経歴書と志望動機書だけだ」と思っている人は多い。実際、転職エージェントの多くもそう説明する。LinkedInやSNSのプロフィールまで、採用側がいちいち確認しているはずがない。忙しい採用担当者にそんな余裕はないだろう、という理屈は一見筋が通っている。
だが、採用責任者として書類選考から最終面接、オファー面談まで一貫して関わってきた経験から言うと、この前提は半分しか正しくない。LinkedInやSNSは「候補者全員を毎回チェックする」ものではなかった。しかし「ある条件に当てはまった候補者」については、驚くほど高い頻度で開かれていた。そして、そこで見られていたのは学歴や経歴の「裏取り」ではなく、もっと別のものだった。
本稿では、採用会議の内側で実際に起きていたプロフィール確認の実態と、そこで評価が動いた具体的なパターンを、元採用責任者の立場から明かす。
「全員は見ない」が「気になった人は見る」という実態
まず前提として、応募者全員のLinkedInを開いて照合する、というような運用は現実的ではない。採用担当者の時間は常に足りておらず、そんな余裕のあるチームは見たことがない。
一方で、採用会議では毎回のように「この人のLinkedIn見た?」という会話が出ていた。開かれるトリガーになっていたのは、たとえば次のようなケースだ。
- 職務経歴書の経歴に、期間や役職の記載で小さな違和感がある
- 短期間での転職が複数回あり、背景をもう少し知りたい
- 社員紹介(リファラル)で応募してきた候補者
- 有名ファーム出身、あるいは業界内で名前が出てくる候補者
- 最終選考まで進み、オファーを出す前の最後の確認段階
つまりLinkedInは「全員に対する監視網」ではなく、「気になった人、重要な意思決定の前にもう一段階確認したい人」に対して開かれる、いわば二次情報源だった。書類選考の初期段階で落とすための道具ではなく、選考が進むにつれて重みを増していく情報源だったというのが実態に近い。
見られているのは「裏取り」ではなく「言葉の一貫性」
LinkedInを開いたとき、採用側がまず見ていたのは経歴の真偽そのものではない。そこを確認する手段としては稀にしか機能しないし、そもそも学歴や在籍期間の詐称はリファレンスチェックの段階で別途確認される。
採用会議で実際に話題になっていたのは、職務経歴書での語り方とLinkedInでの語り方が、どれくらい一致しているかという点だった。たとえば職務経歴書では「プロジェクトをリードした」と書かれているのに、LinkedInの肩書きや実績の説明では明らかにメンバーの一人としての関わりにしか見えない。あるいは職務経歴書に書かれた役職と、LinkedIn上の在籍期間中の役職表記にズレがある。こうした小さな齟齬は、一つひとつは決定打にならない。しかし積み重なると「この人は場面によって話を盛る人かもしれない」という印象を採用側に残す。
逆に、職務経歴書に書かれた内容が淡々とLinkedIn上でも裏付けられている候補者は、特に何も指摘されることなく選考が進んでいく。目立たないが、実はこれが最も安全な状態だということは、あまり語られていない。
評価を左右していた「つながり」と「推薦文」
もう一つ、採用側が実際に見ていたのが「つながり」と「推薦文(レコメンデーション)」だった。
特にリファラル応募の場合、紹介者とLinkedIn上でどの程度のつながりがあるか、過去に同じプロジェクトや同じチームに在籍していた形跡があるかは、紹介の信頼度を測る材料になっていた。紹介者が「一緒に働いたことはないが知り合いだから紹介した」というケースと、「同じプロジェクトで長く一緒に仕事をしていた」ケースでは、採用会議での重みがまったく違う。
推薦文についても同様で、具体的な仕事の場面に言及した推薦文が複数ついている候補者は、「社内外から評価されている人」という印象を持たれやすかった。一方で、推薦文が一件もない、あるいは儀礼的な一文だけの推薦文しかない候補者は、特にマイナス評価にはならないものの、プラスの後押しも得られない。これは地味だが、ボーダーラインの候補者を通すかどうかの最後の一押しになり得る要素だった。
LinkedInは候補者の経歴を暴くための道具ではなく、職務経歴書という「一枚の書類」の信頼度を補強する、もう一枚の書類として機能していた。
発信内容がプラスに働くケース、マイナスに働くケース
LinkedIn上での発信内容そのものが、採用側の印象に影響するケースもあった。業界や専門領域に関する知見を定期的に発信している候補者は、「自分の仕事を客観的に言語化できる人」という評価につながりやすい。コンサルという職業自体が、思考を整理して伝える力を求められる仕事である以上、これは理にかなった評価軸だと言える。
一方でマイナスに働きやすかったのは、転職活動中であることを露骨に匂わせる投稿や、現職・前職への批判的なコメントだった。「今の会社はもう限界」「評価制度がおかしい」といった発信は、本人にとっては正直な気持ちの吐露でも、採用側からは「次の会社でも同じことを言うのではないか」という懸念材料として読まれてしまう。発信そのものを禁止する必要はないが、選考期間中にどう見られるかは一度想像しておいた方がいい。
「見られて困る」より「見られて何もない」方が損をするケースもある
最後に、意外と知られていない論点を一つ挙げておきたい。LinkedInのプロフィールが真っ白、あるいは数年前から更新が止まっている候補者について、採用会議で「特に問題はないが、何となく手応えがない」というコメントが出ることがあった。
これは減点というより、プラス材料が一つ少ない状態に近い。特に外資系ファームやグローバル展開をしているファームでは、社外でのプレゼンスや発信力そのものを間接的に評価する文化があり、プロフィールの薄さがその分の情報不足として扱われやすい。経歴に何の問題もなくても、判断材料が少ない候補者は、判断材料が多い候補者と比べて相対的に印象が薄くなる。これは不公平に思えるかもしれないが、複数の候補者を比較しながら意思決定をする採用会議の構造上、避けられない現実でもある。
選考前にやっておくべきことは、意外と少ない
ここまで読むと、プロフィールを完璧に作り込まなければいけないように感じるかもしれないが、実際に採用会議で求められていた水準はそこまで高くない。見ていて「安心できる」と感じた候補者に共通していたのは、次のような地味なポイントだった。
- 在籍期間・役職の表記が、職務経歴書と大きくズレていない
- プロジェクトでの役割の説明が、「主語の大きさ」の面で誇張されていない
- 選考中は、転職活動を匂わせる投稿や現職批判を控える
- 推薦文は無理に集めなくてよいが、依頼された経験があれば残しておく
逆に言えば、経歴を盛る必要も、発信量を増やして存在感を演出する必要もない。採用側が見ているのは「見栄えの良さ」ではなく、「書類と実際の人物像にブレがないかどうか」という一点に尽きる。
LinkedInやSNSを選考対策として過剰に作り込む必要はない。だが、職務経歴書に書いた内容と矛盾しない形で、淡々と経歴を反映させておくこと。そして、選考期間中の発信には少しだけ注意を払っておくこと。この二点だけは、知っているかどうかで結果が変わり得る、地味だが実務的なポイントだと言える。