ここ1〜2年、転職相談を受けるときによく聞かれるようになった質問がある。「書類選考って、結局AIやATSがキーワードでスクリーニングしていて、人間はほとんど見ていないんですよね?」というものだ。転職サイトやSNSでそう解説されることが増えたせいか、特に20代後半から30代前半の未経験転職組の間で、この前提はかなり広く信じられている。

急成長ファームで採用責任者をしていた頃、組織が10名から100名規模に拡大していく過程で、書類選考から面接、採用会議、オファー設計まで一気通貫で関わってきた。その立場から言うと、この「AIが機械的に振り分けている」という理解は、半分も当たっていない。むしろ、この思い込みを前提に職務経歴書を書いた人ほど、書類選考で損をしているケースを何度も見てきた。

採用会議の場で「この経歴書、キーワードはそろっているけど中身が薄い」という評価が出ることは珍しくなかった。候補者本人は良かれと思ってキーワードを詰め込んでいるのに、読んでいるのは結局人間で、その人間はキーワードの多さではなく、文脈のつながりを見ている。この構造のズレが、今日話したいテーマの核心になる。

この記事では、書類選考の現場で実際に何が自動化されていて、何が人間の判断に委ねられているのか、採用側で見てきた実態をもとに整理していく。

「AIが自動で振り分けている」というイメージはどこから来たのか

この誤解が広まった背景には、大手企業の新卒採用や、応募数が年間数万件規模になるような一部の大企業の実態が、転職市場全体のイメージとして一般化されてしまったことがある。たしかに応募数が極端に多い企業では、ATS(応募者管理システム)で経歴データを構造化し、学歴や在籍企業、保有資格などの条件で一次的な絞り込みをかけることはある。

しかし、コンサルファームの中途採用、特に戦略系・総合系・ITコンサルの中途ポジションで、応募数が数百〜数千件規模に達するケースは一部の大量採用期を除けば限られている。採用責任者として見てきた現場では、ポジションごとに人事担当者か現場のマネージャーが、最初から職務経歴書を自分の目で読んでいることの方が圧倒的に多かった。応募者数が数十件程度のポジションに、わざわざシステムで一次選別をかける必要はないからだ。

採用会議で実際に起きていたこと──人間が最初に読む理由

なぜ人間が最初から読むのか。理由は単純で、コンサルの中途採用で見られているのは「経験の要素」ではなく「経験の文脈」だからだ。どのプロジェクトで、どういう役割を担い、どういう制約の中でどう動いたのか。この文脈は、キーワードの組み合わせだけでは再現できない。

採用会議では、職務経歴書を読んだ担当者が「この人は自分で考えて動いていたタイプか、指示された作業をこなしていたタイプか」という議論をすることが多かった。この判断は、プロジェクト名や使用ツール名を並べただけの文章からは出てこない。むしろ、具体的な記述が少ない経歴書ほど、会議の中で「これは本人に聞かないと分からない」という扱いになり、評価が保留になるケースが目立った。

保留になった経歴書に共通していたこと

  • 担当業務が「〇〇支援」「〇〇対応」のような抽象的な動詞だけで書かれている
  • プロジェクトの規模や期間、自分のチーム内での立ち位置が書かれていない
  • 成果が「貢献した」「改善した」としか書かれておらず、変化の前後が分からない

保留になった経歴書は、本来であれば面接に進んで本人の口から聞けば評価が上がった可能性もある。しかし採用会議は一件あたりにかけられる時間が限られており、「分からない」は良い評価にはつながらない。これはAIが判定を誤ったわけではなく、人間が読んでも判断材料が足りなかった、というだけの話だ。

キーワードを詰め込んだ経歴書が逆効果になったケース

ATSやAIスクリーニングを意識しているという候補者の経歴書で、実際に評価会議で話題になったのは「戦略立案」「DX推進」「プロジェクトマネジメント」といった単語が並んでいるのに、具体的に何をしたのかが一文も出てこないパターンだった。

この手の経歴書は、むしろ担当者の警戒感を強めてしまう。「この単語を使えば評価されやすいと分かっていて、内容を合わせてきているのではないか」という見方をされてしまうからだ。実際に面接で深掘りすると、該当する単語に対応する具体的な経験がほとんど出てこず、評価を大きく下げて終わった候補者も複数いた。

特に印象的だったのは、求人票に書かれている要件の単語をほぼそのまま経歴書に転記してきた候補者のケースだ。表面上は要件を満たしているように見えるが、面接で「その業務で一番苦労した点は何か」と聞くと、答えが抽象的になり、話がすぐに終わってしまう。採用会議では「要件は埋まっているが、経験の実態が見えない」という評価で見送りになった。

キーワードは「読んでもらうための入り口」にはなるが、「評価を決める根拠」にはならない。この順番を取り違えると、書類選考の通過率はむしろ下がる。

ATS・AIツールが本当に使われている場面はどこか

誤解してほしくないのは、ATSやAIツールが現場で全く使われていないわけではない、という点だ。実際に採用側で活用されていたのは、主に次のような場面だった。

  • 応募者が増える求人媒体からの流入を、応募フォームの入力項目で一次的に整理する場面
  • 複数のポジションに応募してきた候補者の情報を、重複なく一覧管理する場面
  • 内定後の条件確認や書類のやり取りを、定型フォーマットで効率化する場面
  • 過去に応募歴のある候補者を検索し、再応募かどうかを確認する場面

つまりAIやシステムが担っているのは、主に「情報を整理し、人間が判断しやすい形にする」という前段階の作業であって、「この人を通すか落とすか」という評価そのものを担っている場面は、少なくとも採用責任者として見てきた範囲では限定的だった。応募者側から見ると自動化が進んでいるように感じられる部分と、実際に評価の重みを持っている部分は、思っているよりずれている。

「人間が読む」ことを前提にした書類の作り方

以上を踏まえると、書類選考の対策として本当に効果があったのは、キーワードの量を増やすことではなく、読んだ人間が「この人のことをもう少し知りたい」と思える文脈を作ることだった。

評価が高かった経歴書に共通していたのは、担当したプロジェクトについて「どういう状況で、何を期待され、実際に何をして、結果どうなったか」という一連の流れが、短い文章でも一貫して書かれていたことだ。単語の網羅性ではなく、一つのエピソードの具体性で評価されるケースの方が、採用会議では圧倒的に多かった。

欲張ってすべての経験を並べようとするより、担当した中で一番自分が動いた実感のあるプロジェクトを一つか二つ選び、そこだけ具体的に書き込む。採用会議では、情報量より「読んで像が浮かぶかどうか」で評価が分かれることの方が多かった。

本質的な結論

「AIが機械的に振り分けている」という前提は、書類選考における緊張感をいい意味でも悪い意味でも和らげてしまう。いい意味というのは、落ちても「システムに弾かれただけ」と割り切れること。悪い意味というのは、人間が読んでいるという前提を外してしまい、本来書くべき文脈の記述を削ってしまうことだ。

コンサル転職における書類選考は、今のところまだ、最初から最後まで人間が読んで判断している領域が大きい。だからこそ、キーワードをそろえることより、自分の経験を一つの具体的なストーリーとして語れるかどうかが、通過率を左右している。