「戦略コンサルと総合コンサル、年収ってどのくらい違うんですか」。転職相談でこの質問を受けなかった週はほとんどない。特に20代後半から30代前半の候補者は、まず年収レンジの差を知ってから志望順位を決めようとする傾向が強い。

採用責任者としてオファー設計の会議に出ていた立場から言うと、この質問への答えは「思っているより単純ではない」に尽きる。世間で語られている年収差のイメージは、ジュニアクラスの表面的な数字だけを切り取ったもので、実際にオファーレターを作る側から見える景色とはかなりズレている。

今日はこのズレがどこから生まれるのか、採用会議やオファー面談で実際に見てきた具体的なケースをもとに整理したい。年収だけで会社を選んで後悔した人と、年収以外の指標で選んで結果的に満足している人、その分岐点がどこにあったかも合わせて書いておく。

「戦略コンサルは総合コンサルの1.5倍」という思い込み

転職エージェントの記事やSNSでよく見かけるのが、「戦略コンサルは総合コンサルの1.5倍〜2倍の年収」という単純化された比較だ。この数字自体が間違っているわけではない。ただし、これは新卒〜アソシエイト2〜3年目クラスを比較した場合の話であって、マネージャー以上になると事情がまったく変わってくる。

私が関わってきたオファー設計の実感としては、ジュニアクラスでの差はたしかに大きい。しかしマネージャークラス、さらにシニアマネージャー・プリンシパルクラスになると、総合系ファームでもインセンティブやボーナス比率が急激に上がり、戦略系との差はかなり縮まる。むしろポジションによっては総合系のシニアクラスの方がベース+ボーナスの合計が上回るケースを、実際のオファー比較で何度も見てきた。

採用会議で実際に見ていた年収テーブルのズレ

戦略コンサルの年収レンジが「高い」と語られる最大の理由は、ベース給の比率が高いことにある。つまり年収の変動幅が小さく、数字として見えやすい。一方で総合コンサルは、ベースはやや抑えめでも、プロジェクトのデリバリー実績や部門への貢献に応じたボーナス・インセンティブの比重が大きく、これが年によって、そして個人によってかなりブレる。

採用会議では、候補者から前職の年収証明が出てくることが多いが、そこで「額面としては総合系の方が高いのに、なぜか戦略系の方が年収が高いイメージを持っている」候補者に何度も出会った。理由は単純で、ベース給だけを見て比較していたからだ。総合系のシニアクラスの年収は、ボーナスを含めた実支給額で見ないと正しく比較できない。

実際にあったケースでは、総合系ファームのシニアマネージャーから戦略系のマネージャー職に転職しようとした候補者に、双方の年収通知書を並べて見比べてもらったことがある。ベース給だけなら戦略系の方が明確に高かったが、前年のボーナス込みの実支給額で比較すると、ほぼ差がないという結果だった。本人はかなり驚いていたが、これはオファー設計の現場ではむしろよくあるパターンだ。

年収レンジの差は「入り口」で一番大きく、「出口に近づくほど」縮まっていく──これが採用側から見た年収構造の実態だ。

なぜ「額面の差」だけで見ると判断を誤るのか

もう一つ、候補者が見落としがちな観点がある。それは年収の「安定性」と「継続性」だ。

戦略コンサルは、いわゆる「アップ・オア・アウト」の文化が総合系よりも色濃く残っているファームが多い。つまり高い年収レンジは「そのポジションに残り続けられれば」という前提つきの数字であり、昇進できなければ短期間での退職を前提とした設計になっている。実際、面接で「年収の高さ」を志望理由の中心に挙げる候補者ほど、入社後1〜2年で厳しい評価サイクルに直面したときのメンタル的な耐性が低い傾向を、現場のマネージャーからのフィードバックとして何度も聞いてきた。

一方、総合コンサルは組織のレイヤーが厚く、同じグレードに留まれる期間が比較的長い。年収の伸び方は緩やかだが、「継続して働けている年数×年収」で通算すると、5年・10年というスパンで見たときの差は、単年の額面比較よりもずっと小さくなる。

「早く昇進できる人」ほど戦略系が有利になる理由

誤解のないように補足すると、これは戦略コンサルが不利という話ではない。昇進スピードに自信がある人、短期集中で成果を出すタイプの人にとっては、戦略コンサルの年収カーブは非常に魅力的だ。実際、20代でマネージャーに上がった候補者のオファー内容を見ると、同世代の総合系社員を大きく引き離す数字になっていることも珍しくない。つまり年収差は「ファームの種類」よりも「その人がどのスピードで昇進できるか」によって決まる部分が大きい。

「戦略コンサル」「総合コンサル」という括り自体が粗すぎる

もう一つ、採用会議で毎回感じていた違和感がある。それは、候補者も面接官も「戦略コンサル vs 総合コンサル」という二項対立で年収を語りがちだが、実際にはファームごと、さらには同じファーム内のプラクティスごとに年収レンジのばらつきの方が大きいということだ。

例えば同じ総合コンサルでも、テクノロジー導入や業務改革を扱う部門と、規制対応や監査系のプラクティスでは、需要の逼迫度がまったく違う。需要が逼迫しているプラクティスは採用競争が激しいため、通常のグレード別レンジを超えたオファーを個別に承認する稟議が採用会議に上がってくることが珍しくなかった。逆に戦略コンサルでも、案件の当たり外れによってボーナス評価が大きく変動するファームもあり、「戦略系だから安定して高い」とは言い切れない。

つまり、候補者が本当に比較すべきなのは「戦略コンサルか総合コンサルか」という大分類ではなく、自分が入りたいプラクティス・チームの需要と評価の仕組みだ。この解像度まで踏み込まずに大分類だけで年収イメージを固めてしまうと、実際のオファー面談で提示された数字とのギャップに戸惑うことになる。

候補者が本当に見るべき指標

採用側の立場から、年収レンジの比較だけで判断しようとする候補者に伝えてきたのは、次のような観点だ。

  • ベース給とボーナスの比率(変動費の割合が高いほど、実力次第で上振れ・下振れする)
  • 同グレードに留まれる平均年数(昇進しなかった場合の年収の伸びしろ)
  • 評価サイクルの厳しさと、不合格時の処遇(退職勧奨の有無や猶予期間)
  • 3〜5年後のキャリアの選択肢(事業会社への転職、独立、社内昇進のいずれが取りやすいか)

特に見落とされがちなのが最後の項目だ。年収の絶対値だけでなく、その職務経験が「次のキャリアでどれだけ価値を持つか」まで含めて考えないと、目先の年収差に引っ張られて長期的に損をする選択をしてしまう。

結論:年収レンジは「比較する軸」を間違えると意味を持たない

戦略コンサルと総合コンサルの年収レンジは、たしかに構造が違う。しかしその差は「どのグレードで、どんな評価軸で、何年のスパンで比較するか」によって大きく姿を変える。採用会議でオファーを設計する側から見ると、候補者が本当に知りたいのは「年収の額面差」ではなく、「自分の働き方・成長スピードにとって、どちらの年収構造が合っているか」であることがほとんどだった。

目先のレンジ比較に振り回されるのではなく、自分がどのペースで成果を出し、どのタイミングでキャリアの次の一手を打ちたいのかを先に決める。そのうえで、それぞれのファームの年収構造がその計画にフィットするかどうかを見る。この順番を間違えなければ、年収レンジの差はそれほど怖いものではなくなるはずだ。