「職務経歴書に転職回数が多いと、書類の時点で落とされる」。これは私が採用責任者をしていた頃、候補者からも、面接対策記事からも、繰り返し聞いた話です。実際、社内の若手採用担当者からも「この人、5社目なんですけど大丈夫ですか」と確認されることは何度もありました。

ですが結論から言うと、採用会議で「転職回数」そのものが理由で書類が落ちたケースは、私の記憶している限りではそれほど多くありません。むしろ、転職回数が少ない人の職務経歴書のほうが、別の理由で通過しなかったケースをたくさん見てきました。

この記事では、書類選考の現場で実際に何が見られていたのかを、採用会議での具体的なやり取りをもとに整理します。「回数が多いから不利」という単純な話ではなく、回数という数字の裏にある何が評価を分けていたのかを明かします。

「転職回数=マイナス評価」という思い込みの出どころ

この思い込みが広がった背景には、一昔前の日本企業の採用慣行があります。終身雇用を前提にした組織では、転職回数が多いこと自体が「定着しない人」「組織に馴染めない人」というシグナルとして扱われてきました。今でもその名残がある企業は存在します。

ただし、コンサルティングファームの採用はその前提と根本的に違います。プロジェクト単位で成果を出す働き方が前提になっているため、「長く同じ会社にいたかどうか」よりも「短い期間でどれだけ成果を積み上げてきたか」のほうが重視されます。この前提の違いを理解していない候補者ほど、転職回数を過度に気にして、職務経歴書で不自然に取り繕おうとする傾向がありました。

採用会議で実際に見ていたのは「回数」ではなく「一貫性」

採用会議で職務経歴書が回されたとき、担当者が最初に口にするのは「何社目か」ではなく、「この人、何をしたい人なんだっけ」という問いでした。転職回数が多い候補者の資料を見ながら、各社での役割・担当領域・成果を時系列で並べ、そこに一本の線が引けるかどうかを確認する。これが実際の見方です。

線が引ける、というのは例えば「一貫して事業会社の経営企画に近い立場で意思決定支援をしてきた」「一貫してシステム導入の上流工程に関わってきた」というように、業界やロールが変わっても軸が保たれているケースです。逆に、線が引けない場合、すなわち「なぜその会社からその会社に移ったのか」が資料からも面接前の想定質問からも読み取れない場合、回数の多寡に関わらず評価は厳しくなります。

採用会議で交わされていたのは「回数が多い/少ない」ではなく、「この人のキャリアは、他人に説明できる形をしているか」という一点でした。

回数は多いが通ったケース

ある候補者は、20代で4社を経験していました。数字だけ見れば警戒される水準です。しかし職務経歴書には、各社への転職理由が「なぜその選択が次のキャリアにとって必要だったか」という形で明確に書かれていました。新卒で入った会社で営業の基礎を作り、次に業界特化型の営業へ移って専門性を深め、その後事業企画へ社内異動を経て、事業会社の企画職へ転じる。回数は多いものの、各ステップの意図が一直線につながっていたため、面接官からは「計画的にキャリアを設計できる人」という評価がつきました。

回数は少ないが落ちたケース

反対に、新卒から一社で10年近く勤めた候補者の職務経歴書が、採用会議で厳しい評価を受けたこともあります。在籍期間の長さは評価されたものの、担当業務の記載が「営業活動全般」「部内のマネジメント業務」といった抽象的な表現にとどまり、何を意思決定し、どんな成果を出したのかが読み取れませんでした。結果として、「長く勤めたことは分かるが、この人が何をできる人なのかが分からない」という理由で、次の選考へ進めなかったのです。

「一貫性」は物語の美しさではなく、言語化の解像度で決まる

誤解されがちなのは、「一貫性」を後付けの綺麗なストーリーだと捉えてしまうことです。採用会議で評価されていた一貫性は、キャリアの美しさではなく、各転職の意思決定を、当時の状況と選択肢まで含めて具体的に説明できるかどうかでした。

  • その会社に入った時点で、他にどんな選択肢を検討していたか
  • その会社を辞める決断をした具体的なきっかけは何か
  • その転職によって、何を得て、何を失ったと考えているか

この3点に淀みなく答えられる候補者は、転職回数が多くてもほとんど問題になりませんでした。逆にこの3点があいまいな候補者は、初回の転職であっても「意思決定の解像度が低い人」という評価を受けていました。

年齢と回数が重なったときに、評価はどう変わるか

もう一つ、採用会議で頻繁に話題になったのが、年齢と転職回数が同時に増えていくケースです。20代のうちは転職回数が多くても「まだ試行錯誤の途中」として大目に見られる傾向がありましたが、30代半ばを過ぎると同じ回数でも見られ方が変わってきます。

ここで問われるのは「なぜ今この年齢で、まだ探しているのか」という点です。ある候補者は35歳で6社目という経歴でしたが、直近3社では一貫して事業再生に近い領域で経験を積んでおり、面接では「あえて短期集中型のプロジェクトを選んで専門性を圧縮して積み上げてきた」と説明していました。この説明があったことで、年齢と回数の組み合わせに対する懸念は解消され、むしろ「特定領域への解像度が高い人」という評価に変わりました。

一方で、同じく30代後半で回数が多い別の候補者は、「気づいたらこの回数になっていた」という説明にとどまり、面接官からは「本人の意思よりも、環境に流された結果に見える」という懸念が出て、選考が長引く要因になりました。年齢が上がるほど、回数の多さそのものより、その回数を自分の意思でどう説明するかの重みが増していきます。

職務経歴書で「軸」をどう見せるか

実務的な話をすると、職務経歴書の書き方だけでも、この評価は大きく変わります。私が採用会議で「読みやすい」と感じた職務経歴書には、共通する工夫がありました。

  • 各社の経歴の冒頭に、その会社を選んだ理由を一行で添える
  • 担当業務を「何をしたか」ではなく「何を任され、何を判断したか」で書く
  • 退職理由を職務経歴書に書かない場合でも、面接で即答できるよう整理しておく
  • 転職の間隔が短い時期がある場合、その期間に何を学んだかを一言添える

特に効果が大きいのは、一行目の「選んだ理由」です。多くの職務経歴書は、会社名と在籍期間、担当業務の羅列から始まります。しかしそれだけでは、読み手は「なぜこの人はこの順番で会社を選んだのか」を自分で推測するしかありません。推測に頼らせている時点で、書類選考ではマイナスに働きやすくなります。逆に、選んだ理由が一行あるだけで、読み手はその後の経歴をその文脈に沿って読み進められるようになり、印象は大きく変わります。

これらは特別なテクニックではありません。むしろ、自分のキャリアを他人に説明する準備がどれだけできているかを、書類の段階で示しているに過ぎません。だからこそ、付け焼き刃では作れず、評価の差が出やすいのです。

結論:見られているのは回数ではなく、説明できる力

転職回数が多いこと自体は、コンサルティングファームの書類選考において、決定的な不利にはなりません。採用側が本当に見ているのは、複数の転職を経てきた過程を、候補者自身がどれだけ解像度高く説明できるかという一点です。

もし今、転職回数の多さを気にして職務経歴書を書けずにいるなら、回数を隠そうとするのではなく、まず自分自身に「なぜこの順番でキャリアを歩んできたのか」を問い直すところから始めてください。その問いに自分の言葉で答えられるようになったとき、職務経歴書は自然と、採用側に伝わる形になっているはずです。