「面接で高く評価された人は、入社後も活躍する」——これは転職を考えている人だけでなく、採用する側の人間ですら、なんとなくそう信じていることが多い前提です。面接というプロセスにこれだけ時間とコストをかけているのだから、そこでの評価が入社後のパフォーマンスと強く結びついていてほしい、という願望も含めてそう思ってしまうのだと思います。

ですが、急成長ファームで採用責任者として、組織が10名から100名規模になるまでの採用に一気通貫で関わってきた立場から言うと、この前提はかなり怪しいものでした。採用会議で「文句なしの高評価」だった人が、半年後のプロジェクトレビューでは苦戦しているという話を聞くことは珍しくありませんでしたし、逆に「ギリギリ合格」だった人が、気づけばマネージャーからの評判が一番高い、というケースもありました。

面接という場は、候補者の能力のすべてを映し出す鏡ではありません。むしろ、限られた時間・限られた条件の中で「ある種の能力」だけを切り取って測定する、かなり特殊な装置だと考えたほうが実態に近いと感じています。この記事では、選考の通過率と入社後の活躍度がなぜズレるのか、採用会議の内側で見えていたパターンをもとに整理してみます。

面接が測っているのは「瞬発力」であって「持久力」ではない

面接というのは、初対面の相手に対して、限られた時間の中で自分の思考力や経験を言語化し、説得力のある形で提示する場です。ここで求められるのは、いわば知的な瞬発力です。想定していなかった質問にその場で筋道を立てて答える、短時間で相手の意図を汲み取って的確に返す、といった能力は、たしかに重要ではあります。

ただし、実際の業務で成果を出し続けるために必要なのは、この瞬発力だけではありません。地道な資料修正を何十回と繰り返す忍耐力、うまくいかない期間を耐えて改善し続ける持久力、チームの中で摩擦を抱えながらも協働を続ける調整力——こうした能力は、60分程度の面接ではほとんど測ることができません。面接で見えているのは候補者の実力の一部でしかないということを、採用する側はどこかで忘れがちになります。

面接で高評価だった人が入社後に伸び悩む典型パターン

採用会議での評価が高かったにもかかわらず、入社後に苦戦する人には、いくつか共通したパターンがありました。個別の資質の問題というより、「面接で評価される力」と「実務で必要な力」のズレによって起きているように見えます。

  • ケース面接や論理的思考の評価は高いが、実際の業務では正解のない曖昧な状況に耐えられず、動きが止まってしまう
  • 自分の意見を明確に主張できる一方で、周囲のフィードバックや修正指示を「自分の実力を否定されるもの」として受け取ってしまい、素直に取り入れられない
  • 面接では「なんでもやります」と話していたが、実際には地味な調査・資料作成などの下積み業務を軽視し、早期に評価を下げてしまう
  • 個人としての優秀さは本物だが、チームで動くプロジェクトの中で周囲を頼ることができず、抱え込んで疲弊してしまう

これらに共通しているのは、いずれも「個人として優秀であること」と「組織の中で機能すること」が別のスキルだという点です。面接という一対一、しかも候補者が主役になれる場では、後者の弱さはほとんど表面化しません。

逆に、評価がギリギリだった人が活躍する理由

面白いのは、採用会議で評価が割れた、あるいはギリギリ合格ラインだった候補者が、入社後に高い評価を得ているケースが一定数あったことです。こうした人たちに共通していたのは、突出した地頭の良さよりも、キャッチアップの速さと、フィードバックに対する素直さでした。

面接の場では多少もたついていても、「わからないことをわからないと言える」「指摘を受けたら翌週には修正されている」といった特徴を持つ人は、実務に入ってからの伸び方が明らかに違いました。プロジェクトの現場では、最初から完璧な答えを出せることよりも、間違いに早く気づいて軌道修正できることのほうが価値を持つ場面が圧倒的に多いからです。

入社時点の完成度で採用を決めていた組織ほど、後になって「あの時評価が低かった人のほうが活躍している」という声が採用会議に戻ってくる、という皮肉なサイクルを何度も見てきました。

「素直さ」は再現性のある評価項目にしづらい

厄介なのは、この「素直さ」や「キャッチアップ力」が、面接の評価シートには数値化しにくい項目だということです。論理的思考力やケース面接のスコアは面接官によるブレが少ない一方で、素直さのような資質は面接官の主観に大きく左右されます。結果として、採用会議では点数化しやすい能力が優先され、点数化しにくい資質が過小評価される構造ができあがっていました。

採用会議で本当は見えていなかった「入社後のリスク」

採用する側として正直に言うと、面接だけで入社後のパフォーマンスを正確に予測することは、どれだけ面接の設計を工夫してもかなり難しいというのが実感です。特に見えにくいのは次のような点でした。

  • ストレスがかかる状況での意思決定の質(面接は基本的に候補者にとって「準備された」状況である)
  • 上司や同僚との相性(面接官との相性は測れても、配属後のチームとの相性までは測れない)
  • 本人が「成長痛」をどう受け止めるタイプか(最初の失敗をどう消化するかで、その後の軌道が大きく変わる)

だからこそ、優秀な採用チームほど「面接の精度を上げること」だけに固執せず、入社後のオンボーディング設計やフィードバックの仕組みにも同じくらいのリソースを割いていました。選考はあくまで入り口の確率を上げる工程であって、入社後の活躍を保証するものではない、という前提に立っていたからです。

実際、面接回数を増やしたり評価者を追加したりして選考の精度を上げようとする組織はよくありますが、それによって入社後の定着率やパフォーマンスが劇的に改善したという話は、経験上あまり聞きません。むしろ、最初の3ヶ月でどれだけ丁寧にフィードバックを返せているか、失敗した際にどう伴走できているかのほうが、その後のパフォーマンスに大きく影響していた印象があります。選考の精度と入社後の育成力は、本来セットで語られるべきものなのだと思います。

転職を考える側にできること

候補者側の視点に立ったときに言えるのは、面接対策として「その場で切れ味の良い受け答えをすること」だけに時間を使いすぎるのはもったいない、ということです。もちろん一定の瞬発力は必要ですが、それ以上に、入社後にどう振る舞うつもりかを自分の中で言語化しておくことのほうが、結果的に評価にもつながりやすいと感じています。

具体的には、以下のような問いに自分なりの答えを持っておくと、面接での受け答えにも自然と厚みが出てきます。

  • これまでの経験の中で、自分がフィードバックを受けて修正できた場面はどこか
  • 正解が見えない状況に置かれたとき、自分はどう動くタイプか
  • チームの中で自分が苦手とする役割は何で、それをどう補ってきたか

これらは論理的思考力を測る質問ほど華やかではありませんが、採用する側が本当に知りたいのは、まさにこうした「入社後の姿」だったりします。

選考通過はゴールではなく、スタート地点の確率にすぎない

面接で高評価を得ることと、入社後に活躍することは、重なる部分はあっても完全には一致しません。採用する側もこの前提を忘れがちですが、候補者側がこの前提を理解しておくことには大きな意味があります。面接の場で自分を実力以上に大きく見せることに労力を使うより、入社後どう振る舞い、どう学び続けるつもりかを自分の言葉で語れるようにしておくこと。それが結果として、面接の評価だけでなく、その先のキャリアそのものを底上げしてくれるはずです。