面接で「御社に興味はあるのですが、コンサルは激務で体を壊すと聞いていて……」という切り出し方をする候補者を、採用責任者をしていた頃に数えきれないほど見てきた。たいていその後に続くのは、知人がコンサルで倒れた話、ネットの体験談、残業時間のうわさ話だ。
その懸念自体は理解できる。激務であること自体は否定しない。入社後の数年間、物理的な作業時間が長くなるタイミングが実際にある。ただ、採用側として数百人の経歴を見て、入社後の様子まで追いかけた立場から言えるのは、「激務で潰れるかどうか」と「残業時間の長さ」の間には、思われているほど強い相関はなかったという事実だ。
同じプロジェクトに配属され、同じような時間働いていても、3年後も元気に活躍している人と、半年で体調を崩して離脱する人がいた。採用会議でその差を事前に見抜けたことは、実は少なくない。見ていたのは稼働時間ではなく、もっと別の軸だった。
この記事では、採用側が実際に観察していた「潰れる人」と「潰れない人」の違い、そしてその違いが面接のどの場面に表れるのかを、できるだけ具体的に書いていく。
残業時間の多寡では、潰れる人を見分けられなかった
まず前提として、採用会議で「この人は体力的に大丈夫か」という観点が議題に上ることは実際にあった。ただそこで参照されていたのは、職務経歴書に書かれた残業時間や、前職の業界の忙しさではない。そうした情報はむしろノイズとして扱われていた。前職が激務とされる業界出身だからといって、体力面の評価が自動的に上がるわけでもなかった。
理由は単純で、「激務な環境に身を置いた経験がある」ことと「激務に適応できる」ことは別物だからだ。前職が激務だった人の中にも、実は会社の仕組みに守られていただけで、自分で負荷をコントロールする経験がほとんどない人は一定数いた。逆に、定時で帰れる環境にいても、裁量を持って自分で仕事の優先順位を組み替えてきた人は、負荷が急に増えても崩れにくかった。
つまり時間の長さという表面的な指標は、個人の耐性を測る材料としてはかなり弱い。採用会議で本当に注目されていたのは、面接でのやり取りの中に表れる、もっと構造的な特徴だった。この構造的な特徴は、職務経歴書の行間を読むような形でしか見えてこないことが多く、面接官の経験値によって見抜ける精度にも差が出ていた。
採用面接で見えていた、「潰れるタイプ」に共通する3つの特徴
何人もの「早期に離脱した人」の選考記録を振り返ると、面接中の言動にいくつか共通する傾向があった。もちろん全てに当てはまるわけではないが、採用会議で複数の面接官から同じ違和感が出たケースには、次の3つがよく重なっていた。
- 評価の軸が常に外部にある人──「周りからどう見られるか」「上司に認められるか」が行動の出発点になっていて、自分自身の負荷の限界を自覚する基準を持っていない。
- 「分からない」「きつい」を言語化できない人──逆質問や過去の失敗談を聞いたときに、弱みや助けを求めた経験の話が極端に少なく、全てを一人で抱え込んできた形跡がある。
- オンとオフの切り替えを「根性」でしか説明できない人──休み方や気分転換の話を聞いても具体性がなく、「寝る間を惜しんで頑張った」という武勇伝的な語りしか出てこない。
この3つは、短期的には「意欲が高い」「ストイック」と評価されやすい特徴でもある。実際、一次面接では高評価がつくことも多かった。だからこそ採用側は、二次・最終面接や採用会議の場で、意図的にこの部分を掘り直す必要があった。一次面接の評価だけを見て合否を決めていたら、採用の精度はもっと低かったはずだ。
逆に、激務な環境でも長く活躍し続けた人に共通していたこと
一方で、同じように激務なプロジェクトに入っても、数年単位で安定して成果を出し続けた人たちには、別の共通点があった。
- 負荷が上がる予兆の段階で、上司やチームに「このままだと厳しくなりそう」と早めに言語化できる。
- 自分の仕事の一部を人に渡すことに、心理的なハードルが低い。
- 仕事以外に、仕事の調子と関係なく続けている習慣や関係性を持っている(運動、家族との時間、仕事と関係ない友人関係など)。
- 「全部を完璧にやる」ではなく「今回はここで合格点」という線引きを自分の中に持っている。
結局、採用側が見ていたのは「どれだけ長時間働けるか」ではなく、「負荷が高まったときに、それを一人で抱え込まずに外へ出せるかどうか」だった。
この観点は、職務経歴書だけでは全く見えてこない。だからこそ面接での聞き方次第で、同じ経歴の人でも評価が大きく変わることがあった。面接官によっては、この部分を深掘りする質問を持たないまま合否を決めてしまうこともあり、評価のばらつきが生まれる原因の一つにもなっていた。
「激務度」はファームやプロジェクトによってかなり差があり、本人が選べる部分も大きい
もう一つ付け加えておきたいのは、「コンサル=激務」というくくり方自体が、かなり粗い一般化だということだ。同じ会社の中でも、ファームの規模、部門、プロジェクトのフェーズによって稼働の重さは大きく異なる。立ち上げ期で炎上しているプロジェクトと、定常運用に入ったプロジェクトでは、同じ会社名でも体感は別物になる。
にもかかわらず、転職活動中にその差を具体的に質問してくる候補者は実は多くない。面接の最後の逆質問で「配属やアサインはどう決まるのか」「炎上プロジェクトに当たったときのサポート体制はどうなっているか」まで聞いてくる人は少数派だった。そして、こうした質問をしてきた候補者の方が、入社後の立ち上がりが安定している傾向があったのも事実だ。
これは偶然ではない。入社前にその会社の負荷の構造を具体的に把握しようとする姿勢自体が、前の章で書いた「早めに言語化できる」資質と地続きだからだと考えている。逆質問の内容一つで、候補者がどれだけ入社後の生活をリアルに想像できているかが伝わってくることも多かった。
「激務だから無理」で検討を止める前に、確認しておきたいこと
コンサル転職を検討している人に伝えたいのは、「激務かどうか」という二択で判断するのをやめてほしいということだ。代わりに、次のような問いを自分とその会社に対して立ててみてほしい。
- 過去、負荷が高い状況に置かれたとき、自分は誰かに助けを求められていたか、それとも一人で抱え込んで乗り切っていたか。
- その会社・部門で、炎上プロジェクトに当たった場合のアサイン変更やサポートの仕組みはあるか(面接で直接聞いてよい質問だ)。
- 仕事の調子に関係なく続けられている習慣や人間関係が、今の自分にどれだけあるか。
- 直近の案件で、自分の抱えているタスクの一部を他の人に渡すという選択を、実際に取ったことがあるか。
こうした問いへの答えが曖昧なまま「激務でも頑張れると思います」という決意だけで飛び込むと、本人の意欲とは関係なく、構造的に厳しい状況に陥りやすい。これは能力の問題ではなく、準備と環境選びの問題だ。採用側としても、こうした自己理解が伴っている候補者の方が、入社後のミスマッチを起こしにくいと感じてきた。
本質的に見るべきは、時間の絶対量ではなく負荷への向き合い方
「コンサルは激務で潰れる」という思い込みは、半分正しく半分間違っている。激務であること自体は事実だが、それが「潰れる」という結果に直結するわけではない。採用会議で実際に注目されていたのは、残業時間の長さではなく、負荷が高まったときにそれを自分一人で背負い込まずに外に出せるかどうか、そしてその負荷の構造を事前にどれだけ具体的に把握しようとしているかだった。
激務かどうかで迷っている段階にいるなら、まず自分の負荷への向き合い方を振り返り、次に面接の場でその会社の負荷の構造を具体的に質問してみてほしい。そのやり取り自体が、実は選考の評価にもつながっている。