面接の最後、逆質問が終わったあとのタイミングで「御社が第一志望です」と伝える。これは転職活動のテンプレートとしてすっかり定着している一言だ。エージェントからも「熱意を見せるために最後に言っておきましょう」と勧められることが多いらしく、実際、最終面接に臨む候補者のほとんどがこの言葉を口にする。

採用責任者として、数百人分の最終面接の評価シートに目を通してきた。正直に言うと、「第一志望です」という一言そのものが加点要素になったケースを、私はほとんど見たことがない。むしろこの言葉が出た瞬間に、評価者の表情が少し冷めるのを何度も目にしてきた。

熱意を示すための定番フレーズが、なぜ評価に結びつかないのか。そして一部のケースではむしろ逆効果になるのはなぜなのか。今日は「第一志望です」という一言の、採用側から見た実態について書く。

なぜ候補者は口を揃えて同じ言葉を使うのか

面白いのは、この「第一志望です」という発言が、業界や職種を問わずほぼ同じ言い回しで出てくることだ。これはエージェントからの指導が背景にあると考えて間違いない。「最終面接の最後に熱意を示す一言を添えましょう」というアドバイスは、転職支援の現場でテンプレート化されている。候補者本人の言葉というより、誰かに教えられた型をなぞっているケースが大半だ。

採用側はそれを百も承知している。評価者同士の会話でも「また最後に第一志望って言ってたね」という反応が出ることはあっても、それが評価を動かすことはない。型通りの言葉をどれだけ流暢に言えるかではなく、型の内側にどれだけ自分の言葉があるかが見られている、と言った方が正確かもしれない。

「第一志望です」は、言ってもほぼ評価が変わらない

まず前提として、採用会議の評価シートに「第一志望発言の有無」という欄は存在しない。評価されるのは候補者のスキル・経験・人柄・ポテンシャルであり、最後に発せられる一言はそのどれにも直接該当しない。つまり言っても言わなくても、評価の点数自体は基本的に変わらないというのが実態だ。

この話をすると候補者は意外そうな顔をするが、考えてみれば当然のことでもある。採用側は何十人もの候補者を比較している。「御社が第一志望です」と言った人と言わなかった人を比べて、前者に加点していたら、言葉さえ覚えれば誰でも評価が上がることになってしまう。そんな杜撰な選考をしているファームは、少なくとも私が見てきた範囲では存在しなかった。

採用会議で本当に見られているのは「言葉の解像度」

では、熱意そのものが見られていないわけではない。見られているのは、熱意を支える「解像度」だ。採用会議で評価者同士が実際に話していたのは、次のようなことだった。

  • この会社の、どの領域・どのプロジェクトに関わりたいと具体的に言えているか
  • 競合他社と比較した上で、なぜこの会社を選んだと説明できているか
  • 入社後に自分が何を期待されるか、どこまで理解して話しているか
  • 過去の発言(一次面接・二次面接)と、最終面接での志望理由に一貫性があるか

「第一志望です」という結論だけを述べて、その根拠を聞かれると答えが浅くなる候補者は非常に多い。評価者が見ているのはまさにこの「結論に至るまでの思考の中身」であり、結論の言葉そのものではないのだ。

「第一志望です」は結論であって、根拠ではない。採用側が知りたいのは常に根拠の方だ。

一次・二次との一貫性が見られている

もう一つ見落とされがちなのが、時系列での一貫性だ。一次面接では「業界全体に興味がある」とぼんやり話していた候補者が、最終面接だけ急に「御社が第一志望です、昔からこの会社に憧れていました」と言い出すと、評価者はむしろ違和感を覚える。各選考段階での発言の積み重ねと、最終的な結論が自然につながっているかどうかが、信頼度を左右する。

なぜ「言葉だけの第一志望」はむしろ評価を下げるのか

ここが今回一番伝えたいことだ。「御社が第一志望です」という発言そのものはニュートラルだが、その発言の後に続く中身が薄いと、むしろマイナスに働くことがある。

採用会議でよく話題になっていたのは、こういうパターンだ。評価者が「第一志望とのことですが、他にどんな会社を受けていますか、その中での御社の位置づけは」と聞く。ここで比較の軸が全く出てこない、あるいは「御社が圧倒的に良いので他はあまり比較していません」のような曖昧な返答が来ると、評価者の中では「この人は本当に業界研究をしていないのではないか」という疑念が生まれる。つまり第一志望という強い言葉を使ったことで、むしろその後の薄さが目立ってしまうという逆転現象が起きるのだ。

言わなければ気にされなかった粗が、強い言葉を使ったせいで浮き彫りになる。これは選考の現場で繰り返し見てきたパターンで、候補者本人はまったく気づいていないことが多い。

覚悟が伝わる人は、どこが違うのか

一方で、採用会議で「この人は本気度が伝わってきた」と評価されていた候補者には、共通する特徴があった。

  • 「第一志望です」という言葉を使わず、代わりに具体的な懸念点や確認事項を聞いていた
  • 内定が出た場合の入社時期や引き継ぎについて、現実的な質問をしていた
  • その会社でしかできないと考える理由を、自分のこれまでの経験と結びつけて説明していた
  • 弱みや懸念点について聞かれたときに、取り繕わず具体的に答えていた

こうした候補者は、むしろ「第一志望です」という言葉を一度も使わないことも多い。だが評価者の間では「あの人は本気だった」という共通認識が自然に生まれていた。言葉で熱意を宣言する必要がないほど、質問や態度そのものから本気度が伝わっていたということだ。

ファームの規模によって見られ方は変わる

もう一つ補足しておきたいのは、ファームの規模によってこの発言の受け取られ方にも微妙な温度差があるということだ。大手の総合系ファームでは、候補者の数自体が多く、評価者も一言一言にそれほど時間をかけない。「第一志望です」はほぼノイズとして処理され、他の評価項目で判断が決まる。

一方、人数の少ないブティック系ファームでは、採用担当者自身がその後も一緒に働くことになるため、「本当にこの人はうちに来る気があるのか」をより慎重に見極めようとする。この場合、第一志望という言葉の有無よりも、その場で出てくる具体的な質問の深さや、入社後の働き方への理解度が、より直接的に評価へ反映される傾向があった。規模が小さいほど、言葉の軽さが見抜かれやすいとも言える。

結論:言葉より「なぜその会社でなければならないか」の中身

「御社が第一志望です」という一言自体は、良くも悪くも採用結果を左右しない。重要なのは、その言葉の裏にある解像度の高さであり、他社との比較軸であり、選考全体を通じた発言の一貫性だ。

もしこれから最終面接を控えているなら、「第一志望です」と言うかどうかに頭を使うよりも、「なぜこの会社でなければならないのか」を、他社との比較や自分の経験に基づいて具体的に語れるように準備する方がはるかに意味がある。言葉は結論でしかない。採用側が本当に知りたいのは、その結論にどうやって辿り着いたかという過程の方だ。

テンプレートの一言を覚えること自体に時間を使うより、その一言を言わなくても伝わってしまうくらいの解像度を、自分の志望理由の中に積み上げておくこと。最終面接という限られた時間の中で評価者の印象に残るのは、結局そちらの方だ。