「英語ができないと、コンサルの書類選考すら通らない」。これは私が採用責任者をしていた頃、面談やカジュアル面談で最も多く聞かれた不安のひとつだった。TOEICのスコアを職務経歴書の一番目立つ位置に書いてくる人、逆に「英語に自信がないので厳しいと思いますが」と応募前から自ら諦めムードになっている人。どちらも、実際の採用の現場で何が見られているかを正確に知らないまま、勝手に高いハードルを想像してしまっている。

結論から言うと、英語力そのものが合否を分けた場面は、私が見てきた選考の中ではごく一部だった。もちろんゼロではない。だが多くの候補者が思っているような「英語ができないと門前払い」という構図とは、実態がかなり違う。

この誤解は厄介だ。なぜなら、英語への苦手意識だけで応募自体をやめてしまう人が一定数いる一方で、逆に英語力を鍛えることに時間を使いすぎて、本来もっと評価される準備がおろそかになる人もいるからだ。求人票の「英語力あれば尚可」という一文を「英語力がないと戦えない」と読み替えてしまい、必要以上に萎縮しているケースを何度も見てきた。今日は、採用会議の中で英語力が実際にどう扱われていたかを、具体的な場面をもとに整理したい。

「英語ができない」を理由に落とした記憶はほとんどない

正直に言うと、書類選考や一次面接の段階で「英語力が足りないから不合格」という評価がついたケースを、私はほとんど思い出せない。落選理由の多くは、論理的な説明力、地頭の使い方、志望動機の具体性、あるいは職務経歴の中身であり、英語はそもそも評価項目の主役に上がってこないことが大半だった。

特に国内クライアントを中心に扱うファームや、人事・組織領域、業務改革系のプロジェクトが多いチームでは、資料も会議もほぼ日本語で完結する。そうしたポジションの採用会議で英語の話題が出ることは、体感としてはかなり少なかった。

それでも求人票には「英語力があれば尚可」という一文が入っていることが多い。これは「必須ではないが、あれば配属の選択肢が広がる」程度の意味で書かれていることがほとんどで、採用会議の場でその一文を理由に見送りが決まった記憶は、私の担当した範囲ではほぼない。むしろ英語欄が空欄でも、他の評価項目で十分に高得点であれば、通過判定が揺らぐことはなかった。

本当に見られているのは「英語力」ではなく「使う場面が来たときの落ち着き」

一方で、グローバル案件やクロスボーダーの案件を抱えるチームでは話が変わる。ただしそこで見ているのも、ネイティブ並みの流暢さではない。

採用会議でよく交わされていたのは、こういう会話だ。「英語の資料を読めるか」「海外拠点とのメールやチャットで意思疎通できるか」「クライアントの英語資料を要約して日本語で説明し直せるか」。つまり求められているのは、スピーキングの華やかさよりも読んで理解し、必要な部分だけ人に伝え直せる実務的な処理能力だった。

面接でも「TOEICは何点ですか」より、「英語の資料を読んだときに、どこまで自力で読み進められて、どこから翻訳ツールに頼るか」を具体的に聞くほうが、実際の適性が見えやすい。点数は当日の緊張感やその後の実務対応力までは教えてくれないからだ。

正直に「苦手です」と言った人のほうが評価が高かったケース

印象に残っているのは、面接で「英語は正直得意ではありません。読むのは時間をかければできますが、話すのは苦手です」とはっきり言った候補者だ。その場で取り繕わず、自分の実力を過不足なく説明できたことが、むしろ「入社後に無理な見栄を張らず、周囲に助けを求められる人」という評価につながった。逆に「英語は問題ありません」と言い切ったのに、後日の英語資料の読み合わせで実力との差が明らかになり、印象を落とした候補者もいた。

英語力そのものより、自分の英語力を正確に自己申告できるかどうかのほうが、よほど選考に影響していた。

逆に「英語ができる」と豪語する人ほど注意して見ていた

意外に思われるかもしれないが、採用会議で慎重に扱われていたのは「英語力に不安がある人」よりも、「英語は完璧です」と自信満々に語る人のほうだった。理由は単純で、その自己評価と実際のスキルにギャップがあった場合の入社後のリスクが大きいからだ。

帰国子女やMBA留学経験者など、実際に高い英語力を持つ候補者ももちろんいる。彼らの多くは、自分の英語力について「日常会話は問題ないが、専門用語の資料を初見で読むには時間がかかる」といった具合に、できることとできないことを分けて話す。逆に、実力の裏付けが薄いまま「英語は得意です」とだけ繰り返す候補者には、面接官がその場で英語の資料を見せて反応を確認するという場面も何度かあった。自己評価の解像度の低さは、それ自体が評価対象になっていたと言っていい。

「出世できない」という不安も、ファームによってかなり違う

もう一つよくある思い込みが、「英語ができないとマネージャー以上に上がれない」というものだ。これはファームやチームによって差が大きく、一括りにはできない。実際、マネージャーやシニアマネージャーまで英語をほとんど使わずに上がっていった人を、私は何人も見てきた。彼らに共通していたのは、英語が必要になる案件を無理に取りに行かず、自分の強みが活きる領域で着実に実績を積んでいたことだった。

  • グローバル案件の比率が高いチームでは、マネージャー以降で英語を使う頻度が急に増える
  • 国内クライアント中心のチームでは、パートナーになっても英語をほとんど使わないケースもある
  • 同じファームの中でも、部門やチームによって求められる英語力の水準が大きく異なる

つまり「このファームは英語必須かどうか」という聞き方自体が粗すぎる。本当に確認すべきは、自分が配属される可能性のあるチームで、英語がどの程度・どんな場面で必要になるかという、もっと解像度の高い情報だ。

面接で確認すべきは点数ではなく「使用場面」

英語力への不安を抱えたまま面接に臨むくらいなら、その不安を逆質問に変えたほうがいい。採用側からすると、こうした逆質問はむしろ好印象になることが多かった。

  • 「配属される可能性のあるチームでは、英語はどんな場面で使いますか」
  • 「資料は日本語と英語、どちらが中心になりますか」
  • 「入社後に英語力を伸ばすためのサポートや研修はありますか」

こうした質問をされると、採用側は「この人は入社後のギャップを事前に潰しにきているな」と受け取る。逆に、実力以上に「英語は得意です」と見栄を張ってしまうと、入社後にそのギャップが露呈したときのほうがよほど信頼を損なう。曖昧な自己評価のまま入社して、配属後に初めて自分の英語力とチームの要求水準のズレに気づく、というのが一番避けたいパターンだ。事前に解像度を上げておけば、そのズレはほとんど防げる。

結局、恐れるべきは英語力ではなく思い込みのほうだ

「英語ができないとコンサルは無理」という思い込みは、実態よりもずっと強く候補者を縛っている。実際に見られているのは、流暢さでも点数でもなく、自分の実力を正確に把握し、必要な場面で誠実に対応できるかどうかだ。

英語に苦手意識があるなら、それを隠すのではなく、どの程度・どんな場面で困る可能性があるのかを自分なりに言語化しておく。それだけで、面接での受け答えも、入社後のミスマッチも、大きく変わってくる。

英語力を理由に応募をやめる前に、まずはその会社・そのチームで英語が実際にどう使われているかを確認する。遠回りに見えて、それが一番確実に不安を解消する方法だ。