職務経歴書に「〇〇社にてコンサルタントとして従事」と書いてある候補者は、正直かなり多い。書類選考の段階では、それだけで十分に目を引く。だが面接で少し踏み込んで質問すると、急に言葉が曖昧になる人が一定数いる。「その提案、なぜその内容になったんですか」と聞いた瞬間に、目が泳ぐ。
採用責任者としてこの手のケースを何度も見てきて気づいたのは、「コンサルをやっていました」という言葉が指している実態には、かなり大きな幅があるということだ。ある人にとっては、クライアントの経営層と一緒に打ち手を設計し意思決定に関与する仕事だった。別のある人にとっては、クライアント先に常駐して、本来そこの社員がやるはずだった実務を、契約上は「コンサルティング」という名目でこなしていただけの仕事だった。
後者が悪いという話ではない。実務遂行力そのものは十分に評価に値するし、むしろ現場を回せる人材として重宝されることも多い。問題は、その経験を「コンサル経験」という言葉でひとまとめにして語ってしまうと、面接で本来評価されるはずの実務力すら正しく伝わらなくなる、という点にある。
今日は、この”社員代替”型のコンサル経験というものが実際にどう見えているのか、そして採用会議でどんな瞬間に「あれ、ちょっと違うな」と感じられてしまうのかを、具体的な場面をもとに書いておきたい。
「コンサル経験」という言葉が指すものは一つではない
まず前提として、コンサルティングファームと一口に言っても、案件の性質はかなり違う。経営層向けに戦略や打ち手を提案するタイプの仕事もあれば、システム導入や業務改善プロジェクトにおいて、クライアント先に長期間常駐し、実務の遂行そのものを担うタイプの仕事もある。特に後者、いわゆる実行支援・PMO系の案件では、契約形態としては「コンサルティング契約」でありながら、実態としては「クライアント企業の欠員を埋める人員」として機能しているケースが少なくない。
これは業界の構造上、珍しいことではない。クライアント側が慢性的な人手不足を抱えていて、正社員を採用する代わりに外部のコンサルタントを常駐させて穴を埋める、というモデルは実際に広く存在する。ファーム側も、その方が安定的に稼働を確保できるため、この種の契約を積極的に受注する。
結果として何が起きるかというと、本人は「自分はコンサルタントとして働いていた」と認識しているのに、実際にやっていた業務は、クライアント企業の一社員が担当していたはずの定型的な実務や進捗管理だった、というギャップが生まれる。本人にそのつもりがなくても、肩書と実態がずれたまま職務経歴書に反映されてしまう。
採用会議で「あれ?」となる瞬間
面接や書類を見ていて、この手のギャップが表面化するタイミングにはかなり共通したパターンがある。採用会議で候補者の評価が急に下がるのは、だいたい次のような質問への反応がきっかけだ。
- 「その提案、なぜその打ち手になったんですか」と聞くと、「クライアントからそう指示があったので」という答えが返ってくる
- 「その分析のフレームワークは誰が設計したんですか」と聞くと、「先輩コンサルタントが作ったフォーマットに沿って埋めました」という答えになる
- 「その施策のインパクトはどれくらいでしたか」と聞くと、具体的な数字がまったく出てこない
- 「なぜその優先順位にしたんですか」と聞くと、「クライアントの担当者と決めました」で終わり、自分がどう関与したかの説明がない
これらに共通しているのは、質問が「意思決定の理由」を聞いているのに、答えが「誰かの指示を実行した経緯」になってしまっている、という点だ。決して嘘をついているわけではない。本人としては誠実に答えているのだが、そもそも意思決定の場に自分がいなかったので、答えようがないのだ。
職務経歴書の「担当した」という一言の裏に、意思決定への距離がどれだけあったかは、書類だけでは絶対に分からない。だからこそ面接で必ず聞かれる。
なぜこの”ズレ”が起きるのか
この現象が起きる背景には、業界特有の構造がある。実行支援系のプロジェクトでは、クライアント先に常駐するコンサルタントの人数がそのまま売上に直結するビジネスモデルが多い。そのため、ファームとしてはできるだけ多くの人員を長期間クライアント先に張り付かせたいというインセンティブが働く。
常駐する側の若手・中堅コンサルタントは、日々の業務としては、資料の更新、議事録の作成、進捗管理、簡単なデータ集計といった、本来クライアント企業の担当者がやってもおかしくない実務を任されることが多い。もちろん、そのプロジェクトの規模や難易度によっては高度な専門性が必要とされる場合もあるが、少なくとも「戦略の意思決定に関わる」という経験とは質が異なる。
本人からすれば、名刺には「〇〇コンサルティング株式会社」と書いてあり、契約形態も「コンサルティング契約」なので、自分がやっていることを「コンサル経験」と呼ぶこと自体に違和感を持ちにくい。むしろ、そう呼ばない理由がない。だからこそ、この言葉のズレは本人が気づかないまま職務経歴書に定着してしまう。
採用側が見ているのは「経験の量」ではなく「意思決定への距離」
採用会議で候補者を評価する際、正直なところ「何年コンサルをやっていたか」や「どんな業界のプロジェクトに携わったか」は、それほど決定的な材料にはならない。それよりもはるかに重視しているのは、その人がプロジェクトの中でどれだけ意思決定に近い位置にいたか、そしてその意思決定のロジックを自分の言葉で語れるかどうかだ。
戦略系や総合系ファームの候補者であっても、実は「先輩の指示で作業していただけ」というケースは普通にある。逆に、いわゆる実行支援系のファーム出身であっても、クライアントの担当者と対等に議論し、自分なりの仮説を持って打ち手を提案していた人は、面接で驚くほど筋の通った説明をする。つまり、ファームの看板や職種の名称そのものよりも、本人が実際にどこまで頭を使って仕事をしていたかの方が、選考結果を大きく左右する。
「社員代替」型の経験自体が悪いわけではない
誤解してほしくないのは、常駐型・実行支援型の経験そのものに価値がないという話ではまったくないということだ。現場を実際に回した経験、クライアントの温度感を肌で理解している経験は、むしろ多くの企業が欲しがっている実務力そのものである。問題は経験の中身ではなく、それをどう言語化して伝えるかにある。
「社員代替」型の経験しかない人がすべきこと
もし自分の経験を振り返って、「意思決定にはあまり関与していなかったかもしれない」と思い当たるなら、面接対策としてやるべきことは意外とシンプルだ。
- プロジェクト全体の中で「自分が判断を任された瞬間」を、どんなに小さくても具体的に思い出しておく
- 「指示されたこと」と「自分で考えて提案したこと」を、職務経歴書の段階で意識的に切り分けて書く
- 数字で語れる部分は、たとえ小さな改善でも具体的な数値に落とし込んでおく
- 「なぜそうしたのか」を聞かれたときに、他人の判断の代弁ではなく、自分がその場でどう考えたかを語れるように準備しておく
面接官が本当に見たいのは、過去の肩書ではなく、「この人は次の職場でも自分の頭で考えて動けるか」という一点だ。だとすれば、過去の経験が”社員代替”に近い実態だったとしても、そこから何を考え、何を学んだかさえ言語化できていれば、評価が下がる理由にはならない。むしろ、経験の実態を正直に整理し、意思決定にどこまで近づいていたかを自分で把握できている候補者の方が、肩書だけの「コンサル経験者」よりもよほど信頼できる、というのが採用側の本音である。